プログラマ行進曲第二章

主にソフトウェア関連の技術をネタにした記事を執筆するためのブログ

Amazon(あるいはジェフ・ベゾス) の本当の狙いを見抜こうとせず、まんまとAmazonの策略にはまっている出版社社員

※タイトルは半分釣りです。私がこの記事で書きたいのはタイトルの後半部分で、前半の「Amazonの本当の狙い」なんて私では読み切れないので、誰か頭のいい人が分析してください。id:elm200さん(@)や、以前Amazonに関して素晴らしい分析をした深津貴之さん(@)がそのうち分析してくれると期待しています。

先日Twitterのトレンドを眺めていたら、こんな記事を見かけました。

「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る(BLOGOS編集部) - 注目のITビジネストピックス - IT - livedoor ニュース

感情溢れる見出しに加え、Amazonの強気な契約内容が話題になったようで、はてブでは当然の如くホッテントリ入りし、Twitterでも割と長い間トレンドになっていたようです。

この記事を見て色んな人が色んなところ(というかTwitterはてブしかチェックしてませんが)で色んな反応をしていましたが、私の見る限り大きく分けると「55%なんて取り分は高すぎる!→Amazonとは合意しないほうがいいのでは?」という系統の反応と「今まで電子書籍の規格統一とか実現できてなかったから自業自得だ」という系統の反応に分かれていたように見えました。

私はどちらかといえば後者寄りの感想を持ったのですが、それよりも前に気になったのは(Twitterはてブでの)単純すぎる二分化された反応が多く見られたことです。

「あれ、何でみんなAmazonのこのふっかけ方は意図的なんだって気付かないんだろう?

そう思いながらこの記事に対する読者の反応をずっと見ていたら、少ないながらも何人か同じ考えの人がいました。全員挙げるのは大変なので分かりやすく端的に述べたこの人のツイートを紹介します。

私もこの方が言うように、「(記事の内容が正しかったとして)Amazonが今回ムチャクチャな契約を迫ったのは、自分の有利になるようにふっかけてきた」と思っています。

そう考えるのは一応根拠があって、以前交渉学という学問の入門書にこの手口そのままのテクニックが紹介されていたからです。

交渉学入門

交渉学入門


今では同じ著者人のこういう本もあるようです
【ビジュアル解説】交渉学入門

【ビジュアル解説】交渉学入門

この本の中によく使われる交渉戦術がコラムで4つ紹介されていて、その中の一つのドア・イン・ザ・フェイスという交渉戦術の項目を見ると、笑えるくらい今回のAmazonのやっていることと合致しているので、少し長くなりますが引用します。

人間は、交渉相手から出された要求を断るとき、どんな内容かにかかわらず、何となく罪悪感を感じてしまうものである。この感情を巧みに利用したドア・イン・ザ・フェイス(Door in the Face)と呼ばれる戦術がある。この戦術では、最初に相手がまず承諾しないであろうと思う厳しい条件を意図的に提示し、いったん相手に拒否させる。その上で、最初の条件より少し譲歩して見せた条件を提示して、相手に合意を求めていくのである。この戦術は、予想外の条件を出して交渉相手の心理を揺さぶるものであり、その後の要求条件に対する交渉相手の冷静な判断力を奪うことを目的としている。この戦術も、非常によく用いられている。この戦術を用いた交渉を受けた場合は、感情的に対応しないことが重要だ。最初に提示された予想外の条件に惑わされず、何が相手の本当の要求かを冷静に判断することが大切である。また、いつもこの方法を用いる交渉者は、相手から、最初の条件は実際の要求からかなりかけ離れており、必ずその後に譲歩条件が出てくると見極められるリスクがある。その意味では、この戦術を使うことには、リスクもあることを知っておく必要がある。

(※赤字処理は筆者)

私のセンスが悪くて赤字だらけになってしまいましたが、どうでしょうか? 今回のAmazonがやっていることとほとんど一緒だと思いませんか?

あまり細かい動向や定量的な分析の基になる統計データを把握していないので確固とした証拠は提示できませんが、Amazonがアメリカの出版市場でひときわ大きな位置を占めていることは間違いないでしょう。Kindleを含めた戦略により、Appleと同じくプラットフォーマーとしての位置を着々と築いています。契約社会のアメリカの中でそういう位置を築くには、あらゆる交渉術を駆使しているのだと思います。今回のもその一つ、というか小手調べなのではないでしょうか?

引用した解説にもあるように、ドア・イン・ザ・フェイスという交渉戦術の目的は「交渉相手の冷静な判断力を奪うこと」らしいですが、最初に紹介したBLOGOSの記事に登場した出版社社員を見る限り、まるっきり相手の戦術にはめられているように思えます。流石に出版社の経営陣全員がこの出版社社員と同じナイーブな反応をしているとは思いたくないですが…

ドア・イン・ザ・フェイスを使われたときには「何が相手の本当の要求かを冷静に判断することが大切」ということらしいので、出版社が今回の動きでするべきなのは短絡的に「こんなの論外だ!」と反応することではなく、Amazonの本当の狙いを見極めようと動いて、Amazonとの交渉を有利に導くようにするのが必要なんじゃないかなー、とか交渉なんてしたことがない素人がほざいておきます。もちろんその中には、「Amazonとは契約しない!」という選択肢もありですよ。ちゃんとあらゆる選択肢を検討した上で、消費者や著作者に不利益がかからないようにするならば、ですが。

今回紹介した「交渉学入門」を久しぶりに読み返してみると、今回のAmazonの動きにどう対応するべきかのヒントがちりばめられています。今回紹介したドア・イン・ザ・フェイスというテクニックだけでなく、交渉するときに陥りがちな罠とその対処法、交渉というものに対する考え方などが分かりやすく網羅的に書かれていて良い本だと思いますので、消費者側である我々読者はこういった本を読んでみて、今後のAmazonと出版社の動向を見ていくのも面白いかもしれませんね。